核種分析、間違いの怪2011/04/21 09:25


4月21日に発表された東電のプレスリリースでは、3月24日・28日・29日に原発施設内で採取した試料に対する核種(放射性物質の種類)分析の間違いが発表されました。
タービン建屋でのデータから、目立つ変更点を拾ってみましょう。

●1号機タービン建屋地下の溜り水(1回目)
塩素38:1.6x10の6乗Bq/cc → 検出限界未満

●2号機タービン建屋地下の溜り水(再測定)
テクネチウム99m(半減期=約6時間):4.8x10の5乗Bq/cc → 2.5x10の4乗Bq/cc

●3号機タービン建屋地下の溜り水(2回目)
テクネチウム99m(半減期=約6時間):2.2x10の3乗Bq/cc → 6.8x10の2乗Bq/cc

●4号機タービン建屋地下の溜り水
テルル129(半減期=約70分):26Bq/cc → 検出限界未満

この内、塩素38については、その存在自体が再臨界の証とてアメリカの科学者から指摘され、大きな問題となったものです。
テクネチウム99mとテルル129は、主にウラン235の核分裂反応によって生成される放射性物質。ともに半減期が短いため、検出されれば、これまた再臨界が疑われる物質です。

3月11日以来、東電から何度か分析結果の間違いが発表されました。再発表では、いずれも深刻な事態(例えば、再臨界)の可能性が打ち消されています。これって、信用できますか?

プレスリリースには、「原子力安全・保安院より厳重注意を受け」と書いてありますが、本当は、「反対派の科学者から問題視されるようなデータを無闇に発表するな!」と脅されたたのでは、と勘ぐりたくなるのも当然です。

(この話は、次の記事に続きます)

モニタリング体制に問題有り2011/04/21 10:29

そもそも、福島第1原発の敷地内や施設内での放射性物質のモニタリング(監視)体制に大きな問題があります。

考えてみたら、居眠り運転で重大事故を引き起こした容疑者が、みずから現場検証を行っているようなもの。お目付役は、ドライバーが眠そうなのを知りつつ、運転を続けさせてきた同乗者=原子力・安全保安院なのです。
サンプルの採取は東電じゃないとできない部分もあると思いますが、すぐさまモニタリングの主体を第三者機関に移すべきでしょう。
重大事故ですから、同一のサンプルを複数の機関で分析する体制が必要です。国立大学の研究室などがよいでしょう。また、原子力発電に対して慎重な態度を取り続けてきたグループにも参加を仰ぐべきです。

もう一つ、これもモニタリングに関連する話ですが、昨20日、原子炉建屋内に入ったロボット「パックボット」が撮影した映像が公開されました。「撮影自体は17日と18日に行われたのに、なぜ公開は20日なの?」と率直に思ってしまいました。
東電は、見せたくないものが写っている部分をカットしているのでは、と勘ぐりたくもなってしまいます。よきに解釈しても、本当は重要な情報が隠されていた映像が公開されていない可能性があるでしょう。多くの科学者や技術者に出来るだけ早く、すべてを見てもらい、意見を求めていく姿勢が必要です。東電の隠蔽体質はまったく変わっていません。

最新鋭のロボットによって得られている原子炉建屋内の貴重な映像は、リアルタイムのストリーミングで、全世界に対して公開されるべきだと考えるのは私だけではないでしょう。

年間20ミリシーベルト!?2011/04/24 15:02

原発事故は地域社会と地方文化を根底から破壊してしまう。人類は、チェルノブイリでたくさんの命とひきかえに得た重大な教訓を生かすことができませんでした。

文部科学省は、昨4月20日付けで教育現場向けに「放射能を正しく理解するために」なる通達を示しました。
もっとも重要な点は、従来、一般人(大人)において年間1ミリシーベルト以下とされてきた被ばく量の基準を、子供まで含めて年間20ミリシーベルトにまで一気に引き上げたことです。
一般に子供は大人に比べて10倍放射線に敏感だとされます。単純計算すると子供に対する基準を200倍引き上げたことになります。

さて、年間20ミリシーベルトという数字ですが、一日8時間屋外で活動するとして、一時間あたりに換算すると毎時3.8マイクロシーベルトになるようです(細かい計算の根拠は不明)。
ところが、この毎時3.8マイクロシーベルトという数字は、原子力施設はもちろん、病院のレントゲン室の近くなどでも見られる「許可なくして立ち入りを禁ず」と表示されている「放射線管理区域」(毎時0.6マイクロシーベルト以上)の6倍以上の放射線量に当たります。
放射線管理区域
こんな基準の適用を絶対に許してはなりません。以下に、緊急声明と署名依頼が出されていますので、紹介しておきます。
【緊急声明と要請:子どもに「年20ミリシーベルト」を強要する日本政府の非人道的な決定に抗議し、撤回を要求

福島県内で放射線モニタリングを実施した小中学校の75%以上が、「放射線管理区域」を越える放射線量下にあるそうです。
それでも、一部の関係者からは、トンデモ発言が続いています。佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事は、「年20ミリ・シーベルトの放射線量を浴びても、吐き気や火傷などの身体的影響は出ない。発がんのリスクが上がるとされるが、避難しないですむなどのメリットがある場合、限度を引き上げる選択肢がある」(出典記事)と語ったそうです。「避難しないですむメリット」とは誰にとってのメリットですか?そのメリットは、東電と日本政府にとってだけのものです。住民は、「発がんのリスクが上がる」というリスクを背負い込むのみなのです。

唯一、住民の健康を守れる方法は、避難地域の指定を広げた上での集団移住です。短期的な目途しか立たない学童疎開では対応しきれません。この記事の最初に書いた「地域社会と地方文化の喪失」は、ある程度やむを得ないでしょう。命が先決です。
東電と国は、住民の命を守る重大な責任を負っているという当たり前の自覚すらできていないように思えてなりません。

追記:
東京電力は、この期の及んでも、自社の保養施設や研修施設を被災者に提供することは一切していないようです。どういう神経をしているのでしょうか。

どうするのだろう?除染2011/04/27 14:45

文科省から来年の3月11日までの累積線量推定マップが公表されました。
これによると、浪江町の一部では235mSv(ミリシーベルト)に達し、原発から50㎞前後も離れた伊達市や福島市、二本松市の一部でも、一般人の人工被ばくの年間限度量とされる1mSvの10倍を越えると予測されています。
ここ数日伝えられている学校や公園の汚染による屋外活動の制限と合わせて、事態はより深刻な方向に向かっています。

公園や校庭などでは、すでに「除染」という話が持ち上がっています。しかし、放射性物質は、いわゆる毒物と違うので、中和させて無毒化するといったことができません。
除染とは、例えば汚染された表土をすきとって他所に持っていく、いわば移染に過ぎません。深いところの土と入れ替えるというアイデアもあるようですが、結局、地下水が心配になります。

もちろん、公園などの汚染をこのままにしておくわけにはいきません。しかし、すき取った汚染土をどこに持って行くつもりなのか、そこまで含めた綿密な除染計画を進める必要があるでしょう。


毒物と放射性物質2011/04/27 14:47

直前の記事で、「放射性物質は、いわゆる毒物と違うので、中和させて無毒化するといったことができません」と記しましたが、なぜそうなのか、少しだけ話を深めておきます。

例えば、気体の塩素は強い毒性を持ちます。大量に吸い込むと死に至ります。また、塩素がナトリウムと酸素と結合すると次亜塩素酸ナトリウムに。強い殺菌力があるので、プールの消毒や家庭用の漂白剤に使われます。殺菌力があるということは、ちょっと量を間違えれば、人間にとっては毒物になります。一方で、塩素がナトリウムとだけ結合すると塩化ナトリウムです。いわゆる塩(しお)のことで、ほとんどの生物にとって不可欠なミネラル源になります。

放射性物質はどうでしょうか?液体であっても、固体であっても、気体であっても、その原子から発する放射線は変わりません。それどころか、どんな原子と、どんな形で結合しても放射線を出す力(放射能)は変化しないのです。

なぜなのでしょうか?
いわゆる毒物の毒は分子レベルの化学反応によるものなので、化合(結合)の形や相手を変えることによって、無毒化することができます。悪名高いダイオキシンにだって、一応、無毒化する方法はあります(だからといって安心というわけではありませんが)。

放射線はどうでしょうか。例えばガンマ線は、原子の中で原子核の周りを回る電子が軌道を変えるという量子力学的な現象によって生じるものです。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子線ですが、いずれも量子力学的な効果によって生じていることに違いはありません。放射線の発生は、原子の中という、私たちが覗くことのできない世界で起きているのです。

じゃあ、放射性物質を人為的に他の物質に変えることは出来ないのか… それは、超大型の加速器など特殊な装置の中でしかできません。それもごく僅かな量だけです。さらに、加速器を使っても、放射性原子は他の放射性原子に変わるだけで、安定した原子にはなりにくいものです。

人類は放射性物質から放射性を取り除くことはできません。それは、どんなに科学技術が発展しても不可能です。
だから、自然に減っていくのを待つしか方法はありません。ヨウ素131が半分に減る半減期は8日間。セシウム137やストロンチウム90は30年。プルトニウム239は2万4千年です。

もうこれ以上、余計な放射性物質を作り出してはいけないのです。

波紋を広げる年間20ミリシーベルト2011/04/30 17:32

数日前にこのブログでも取り上げた「学校の校庭利用の放射線量上限を年間20mSv(マイクロシーベルト)とする政府の安全基準」が大きな波紋を広げています。4月20日以前は、一般人の被ばく限度量は一律1mSv/年だったのですから、一気に20倍です。すんなりいくわけがありません。

この件に関連して、小佐古敏荘東大教授が内閣参与を辞任しました。ただ、この人、ちょっと調べてみると、近畿原爆症訴訟集団認定訴訟で国側に立った唯一の証人で、無責任な証言を繰り返した人物なのです。「小佐古敏荘 原爆症認定訴訟」でググってもらえば、すぐに分かります。
その小佐古教授が『原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい』とか『「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい』なんて言い出したのだから、原爆症認定訴訟の関係者は、まさに「開いた口がふさがらない」と思っていることでしょう。「あの小佐古教授の口から、ヒューマニズムなんて言葉が飛び出すなんて…」と。彼が改心したのか、それもと、揶揄されているように「御用学者も逃げ出す」状況なのか定かではありませんが、20mSv/年がどれほど非常識な数字であるかを示すエピソードには違いありません。

今日30日午前中の衆院予算委員会で、菅首相と枝野官房長官は、「年間20mSv」を巡って右往左往の答弁を繰り返したようです。
まずは、原則が大切です。「一般人の被ばく限度量は一律1mSv/年」という基準を守り続けなければ、なし崩し的に被災者の、そして、私たちの健康はないがしろにされていくでしょう。

一方、現状で1mSv/年を厳守すれば、避難地域はある程度広くなるでしょう。しかし、文科省が発表した来年の3月11日までの累積線量推定マップによれば、30km圏内にも、1mSv/年以下と思える地域はあります(このマップには10mSv/年までしかプロットされていませんが)。

内部被曝に関しても、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータを避難地域の再検討に活用することができます。

SPEEDI

残念ながら、話は、子供を外で遊ばせなければ、なんとかなるというレベルのものではありません。また、学童疎開のような短期的な対策では意味がありません。
なぜなら、この事故からの避難は、数ヶ月で済まないからです。短くても数年、場所によっては数十年に及ぶことも考えられます。子供が暮らせない場所に、町や村を維持することは不可能です。子供が住めない場所には、大人も住めないのです。

今のところは、福島第1原発から20km圏内を「警戒区域」、20km~30km圏内を一律に「緊急時避難準備区域」、20km以遠で20mSv/年を越えることが予想される地域を「計画的避難区域」としていますが、1mSv/年を基準に、避難の問題を根本的に考え直す必要があるでしょう。






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