拝啓 山本太郎様2011/06/01 16:12

まずは、一面識もない私が、このような形でメッセージを発信する無礼をお許しください。

さて、3.11以降の山本太郎さんの活躍ぶり、文科省抗議行動の直前まで知らずに失礼しました。特に「子供に年20ミリシーベルト」に対する太郎さんの明確な意思表示は、福島のママさんたちの大きな力になりました。また、文科省が「校内で年間1ミリシーベルトを目指す」と態度を変えた背景には、太郎さんの力が少なからずあったと思います。
ただその後、「ドラマを降板させられた」「事務所を辞めた」など、ちょっと悲しいニュースが入ってきました。「俳優引退」なんていう記事も出ましたが、デマですよね?

シスカンパニーのホームページを見ると、事務所は太郎さんの活動に一定の理解を示していたようなので、残念でなりません。私たちが知り得ない様々な事情があっての判断なのでしょう。

一ファンとして、太郎さんの映画・テレビ・舞台などでの活躍に、大いに期待しています。これからは、俳優業と社会的な活動の両立を目指してください。ウォーレン・ベイティにしてもマドンナにしても、みずからの政治的な立場を明確にしながら頑張っています。亡くなったポール・ニューマンもそうでした。

一方、福島第1原発の問題は、どんなに頑張っても数十年、いや何百年も、私たち日本人が背負っていかなくてはならない問題です。政府と東電のロードマップ通り行ったとしても、放射性物質の放出は、年内には止まりません。また、避難した人たちの生活をどうするのか… 汚染地域の除染はできるのか… 問題は山積みです。

脱原発運動、反原発運動にも、未来に向けた長い道程があります。仮に運動が実を結んで、日本中にあるすべての原子炉を早い時期に止めることができたとしても、廃炉にするためには、多くの技術的課題があります。また、すでに山のように存在する放射性廃棄物をどうするのかも考えなくてはなりません。最終処理場の問題などです。

今、太郎さんにお願いしたいのは、あまり思い詰めないで欲しいということです。
仕事は仕事、社会的な活動は社会的な活動。もし、デモの日にテレビの仕事が入ってきたら、仕事優先。映画や舞台をやっている時には、原発のことを考える余裕が無くなるかも知れません。でも、それはそれでイイじゃないですか。
残念ながら、ここまで原発を許してしまった結果、退却のためには少々時間が要ります。ある意味で、気長に構える必要があります。

もう一つ言えるのは、もし、今回の件をきっかけに、太郎さんが、芸能界や映画界・演劇界と距離を置くようになってしまったら、俳優や芸能人で自分の意見をはっきりと言う人が、ますます減ってしまうでしょう。太郎さんの頑張りは、日本の芸能界を変える力にもなろうとしています。

まずは、6月17日初日の『太平洋序曲』ですね。舞台に全力投球!そして、福島の子供たちとママさんたちへの応援をよろしく!

「一俳優の終わりの始まり」なんて悲愴的な発言は、太郎さんらしくありません(笑)。「終わりの始まり」は日本の原発の話です。「山本太郎という俳優の本当の始まり」が今なのでしょう。

「干される、干されない」も、あまり悲観的に考える必要はないでしょう。もはや、原発推進を声高に叫ぶ勢力は追い込まれています。放送局も広告代理店も、変わっていくでしょう。いや、変えていかなければいけないのです。

俳優・山本太郎のこれからの歩みに大きな期待を寄せます。研ぎ澄まされた真剣な表情と、面倒なものすべてを吹き飛ばす底抜けの笑顔。それが太郎さんの真骨頂だと思っています。ぜひ頑張ってください。

私設原子力情報室

「国破れて山河あり」すら…2011/06/01 18:59

「國破山河在(国破れて山河あり)」という、杜甫の有名な漢詩があります。その意は、「国家は戦に敗れてしまったが、山や河の姿は変わらない」と。杜甫は世の中の崩壊を嘆き哀れみながら、一方で、変わらない大自然の雄大な姿に安らぎを求めたのでしょう。

今から千三百年前に生きた杜甫には、山河すらその営みを維持できなくなる「大崩壊」が、同じ東アジアで起きようとは、想像もつかなかったでしょう。言うまでもなく、福島第1原発の事故のことです。

福島の山林が大きな危機を迎えています。「原発周辺、林業危機」(毎日新聞)。
「除染すれば、避難地域も住めるようになる」と吹いて回る楽観的な学者がいますが、彼らの想像力の中に、「森」や「山林」はないのでしょうか。除染も土壌改良も、ほぼ不可能です。毎日新聞の記事には、土砂崩れの問題や、林業の衰退への危惧が書かれていますが、それだけではありません。森はたくさんの雨水を蓄え、その水はやがて豊かな栄養分を含んで、河へ、そして海へと流れ込みます。森は河と海の命の源なのです。
上流に豊かな森のある河が流れ込む海は、例外なく魚たちの天国。人間にとっては、かけがえのない好漁場です。
荒れ果てた森から流れ出る水は、どんな水でしょうか。栄養分が乏しいだけではありません。様々な核分裂生成物(放射性物質)を含む死の水なのです。

河を見てみましょう。「アユ漁延期を検討 放射性物質、基準値超す」(毎日新聞)。多くの科学者が、淡水魚は海の魚より放射性物質を蓄積しやすいと指摘しています。それは、大地に降り注いだ放射性物質の大半が、やがて河に流れ込むから。さらに、河や湖では、海ほどの「拡散」が期待できないのが大きな理由です。息を殺してアユやヤマメと対決する釣り師たちの夢。それは、人が山河と対話する瞬間でもあります。夢も時も、いとも簡単に打ち壊されました。
そしてこの汚染は、小さな川魚から大きな川魚へ、あるいは、水鳥たちへと広がっていきます。河や湖の周りの生態系を守ることは至難の業。そして程なく、私たち人間の内部被ばくへとつながっていきます。

「国破れて山河あり」。人間の営みが、どんなに不幸な事態を招いても、山河は静かに見守っていてくれるはずでした。しかし原子力事故は、それすら許さない過酷なもの。豊かな山河すら失われてしまうのです。

テルル132と情報の隠蔽2011/06/05 11:25

またもや、隠蔽されていた重要なデータが公表されました。
事故直後にテルル132を検出

まず、聞き慣れないテルルという原子ですが、原子番号52(陽子の数が52個)、周期表で見ると右から3番目の酸素属に属します。安定して存在するのはテルル126(陽子52個+中性子74個)など。テルルはレアメタルの一つで、DVDの記録層やガラスの着色剤として欠かせないものです。

さて、問題のテルル132(陽子52個+中性子80個)は、中性子の数が多いため不安定な放射性物質です。半減期は約3日。半減期が3日ということは、自然界には100%存在することがなく、ウラン235の連鎖的核分裂反応によって生じる物質(核分裂生成物)です。
ベータ崩壊しますので、体内に入った場合、深刻な内部被ばくを引き起こす可能性があります(細胞に至近距離からベータ線を照射する)。ただ、プルトニウムのように肺に蓄積して肺ガンを引き起こすといった、細かいメカニズムまでは解明されていないようです。

このテルル132が、「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃の間に、浪江町や大熊町、南相馬市で採取した大気中のチリの中から検出されていた」というのが、今回の明らかにされた隠蔽データのあらましです。

テルル132は運転中の原子炉の燃料棒の中で生まれ、通常は、それが燃料棒から漏れ出すことはないとされます。
…ならば、まず、テルル132の検出はメルトダウンの証です。3月11日の21時には、1号炉はメルダウンを始めました。溶けた核燃料は、圧力容器の底や、一部は格納容器にまで達しています。
そして、テルル132が、原発の外で検出されたのが「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃」。まだ1号炉のベント前の段階です。浪江町は福島第1原発から6kmほど離れています。燃料ペレット・燃料棒被覆管・圧力容器・格納容器・原子炉建屋という「五重の壁」は、ベントや水蒸気爆発以前の段階で、すでに崩壊。絶対に漏れてはいけない物質が、外界に漏れていました。原子炉の安全神話が、まったくの空論に過ぎなかったことが明らかです。
そして、この事実はメルトダウンの恐ろしさをも伝えています。仮に、水素爆発や水蒸気爆発に至らなかったとしても、メルトダウンだけで「五重の壁」は、いとも簡単に破られてしまうのだと。そして福島第1では、メルトダウン+水素爆発という、決してあってはならない事態にまでなっています。

それにしても、東電と保安院の、この隠蔽体質はなんとかできないのでしょうか。
保安院スポークスマンの西山氏は「隠そうという意図はなかったが、国民に示すという発想がなかった」と語ったそうです。この一言は、心底腹立たしい。「すべての情報を公開する」という基本的な姿勢すらないのです。

当ブログで、何度か主張している通り、原発事故関連の情報は、原子力発電と利害関係のない第三者機関によって管理・監視されるべきで、基本はすべて公開です。
現状は、脇見運転で重大な交通事故を引き起こした加害者が、自分で現場検証している状態。自分に不利なブレーキ痕は明らかにしないのが当然と言えば当然なのです。

危機的状況だからこそ、すべての情報を公開して、普段は、原発に慎重であったり、反原発の立場をとっている科学者や技術者からも、広く意見を求めるべきなのです。

放射性物質と核分裂生成物2011/06/05 14:29

当ブログでは、「放射性物質」と「核分裂生成物」という単語を使い分けてきました。これは、自然界にも存在する「放射性物質」と、原子力発電や核爆発でしか生じない「核分裂生成物」を区別するためです。

「核分裂生成物」の多くは「放射性物質」に含まれます(一部、放射線を発しない安定元素も有り)。しかし、大事なことは、そこには自然界には決して存在しない物質があるということです。この点を曖昧にしたくなかったので、あえて「核分裂生成物」という言葉を中心に使ってきました。

核分裂生成物の多くは、なぜ自然界には存在しないのか?
半減期が短いからです。もはや有名になってしまったヨウ素131の半減期は8日、セシウム137とストロンチウム90は30年、テルル132は3日、コバルト60は5.3年、クリプトン85は10.8年。宇宙の歴史や地球の歴史から考えたら、多くの核分裂生成物の寿命は一瞬。仮に超新星爆発や地球誕生の時に存在していたとしても、はるか昔に他の安定的な物質(元素)に変わっています。

原発や原爆は、自然界に存在しない危険な物質=核分裂生成物を新たに作り出します。そして、核分裂生成物の危険性を取り除くには、物質みずからが崩壊するのを待つしかなく、人為的に解毒や分解といったことができません。基本的なことですが、この点をもう一度、確認しておきましょう。

さて、ウラン235に中性子が当たると、二つの物質に分裂し、同時に中性子を1~4個放出。この中性子が別のウラン235に衝突。この繰り返しが連鎖的核分裂反応です。分裂してできる物質は100種類以上(一説によると1000種類以上)に及びます。そのうちの代表的なものが、ヨウ素131やセシウム137です。

では、その片割れはどうなっているのでしょうか?セシウム137を例に考えてみましょう。
原子名の後ろについている数字は質量数といって、陽子の数と中性子の数を足したものです。ということは、ウラン235(陽子92個・中性子143個)の核分裂では、原子の質量数に中性子1個を加えた、質量数236が二つに分裂し、同時に中性子が1~4個生成されます。
核分裂の前後で、陽子数の合計は変わりません。ウランの陽子数が92、セシウムの陽子数が55ですから、引き算をすれば、片割れの陽子数は37になることが分かります。陽子数とは原子番号そのもの。片割れの原子は原子番号37のルビジウムです。
ただ、核分裂の際に飛び出す中性子の数によって、そのルビジウムの質量数は変わりますので、ルビジウム95からルビジウム98まで、4種類の核種=同位体(同じ元素で陽子数は同じだが、中性子数が違う)がありえます。
文章だけでは分かりにくいと思いますので、表にしてみました。
しかし、これらのルビジウムが核分裂生成物として話題に上ることはありません。半減期がきわめて短く、アッと言う間に別な物質に変わってしまうからです。
さらに、ルビジウム95の場合は、ストロンチウム95→イットリウム95→ジルコニウム95→ニオブ95という複雑な変化(崩壊)を遂げて、最後はモリブデン95という安定した原子になります。
この過程は、日本科学未来館のホームページで分かりやすく解説してあります。原発推進の広報ページなので注意は必要ですが、この件に関しては正しい情報です。
一方、このページで触れていないのは、原子が変化(崩壊)する過程で、必ずガンマ線やベータ線といった放射線を放出する点です。ルビジウム95は、何度も放射線を発しながら、やっと最後にモリブデン95として安定するのだということを忘れてはなりません。

超ウラン元素2011/06/05 17:11

核分裂生成物とは別に、使用中の燃料棒の中で作られるのが「超ウラン元素」です。

実は、原子番号92のウランは自然界でもっとも重い元素で、原子番号93以降の原子は「存在しうるが、自然界には存在しない」というもの。これらを超ウラン元素と呼んでいます。
超ウラン元素は、総じて寿命が短く、短時間の間に崩壊して、別な元素(物質)に変わってしまいます。超ウラン元素の代表格とも言えるプルトニウム239の半減期は2万4千年。2万年以上と聞くと長く感じるかも知れませんが、46億年という地球の歴史から見れば一瞬に過ぎません。仮に地球誕生時に、ある程度の量のプルトニウム239があったとしても、それはもうどこにも残っていません。
しかし、私たち人間、いや、生物の一生から考えれば2万4千年は、とてつもなく長い時間です。「放射線(アルファ線)を出し続けるプルトニウム239は、2万4千年経っても、半分にしか減らない」。そう考えれば、絶対に作り出してはいけない物質だということがお分かりいただけると思います。

さて、超ウラン元素は、加速器や原子炉でしか作ることができません。多くの場合は、既存の原子に中性子を吸収させて作るものだからです。
世界には、理論的には存在可能でも、実際に存在が確認されていない元素を作ろうと、しのぎを削る実験物理学者たちがいます。最近も原子番号114のウンウンクアジウムの生成が話題になりました。

話を原発に戻しましょう。
燃料棒の中にできる超ウラン元素は、
ネプツニウム237(半減期=214万年)
プルトニウム238(半減期=88万年)
プルトニウム239(半減期=2万4千年)
アメリシウム-241(半減期=433年)
などです(他にキュリウムなど)。

プルトニウム239の場合は、連鎖的核分裂反応で余った中性子をウラン238が吸収して生成されます。他の超ウラン元素では、ウランやプルトニウムが元になって、アルファ崩壊やベータ崩壊を繰り返す複雑な過程で生成されます。詳しくは原子力資料情報室のサイトへどうぞ。
いずれの超ウラン元素もアルファ線やベータ線を出して崩壊し、別な物質へと変わっていきます(超ウラン元素が崩壊して、別の超ウラン元素になる場合もあります)。
アルファ線とは、ヘリウムの原子核(陽子2個+中性子2個)のことで、透過力は弱いですが、エネルギーは大きく、DNAを傷つける電離作用の強さは、ガンマ線の20倍。万一、超ウラン元素を体内に取り込んでしまうと、アルファ線によって、深刻な体内被曝を受ける可能性があります。理由は、電離作用の強いことがひとつ。もう一点は、遠くまで影響が及ばない分、至近距離にあるたくさんの細胞を確実に壊してしまうからです。

福島第1の事故では、これまでにニュースになっただけで、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムの漏出が確認されています。
政府は「直ちに健康に影響が出るレベルではない」を繰り返していますが、核分裂生成物と併せて、超ウラン元素の危険性を認識し、その監視を強める必要があります。

「渓流の女王」を襲う恐怖2011/06/07 09:19

福島県内の一部で、天然のヤマメから放射性セシウム(セシウム137とセシウム134と思われる)が検出され、出荷停止指示が出されました。
その美しい姿から山女とも山女魚とも書かれ、「渓流の女王」として釣り人たちの人気を集める魚です。

「天然のヤマメなんて、食べたことも見たこともないから関係ない」と思われる方もいるかも知れませんが、事はそれほど単純ではありません。
ヤマメは肉食の淡水魚で、水生昆虫や落下してきた昆虫を餌としています。その住処は、緑に包まれた清流。昆虫の命を育む豊かな森ときれいな水がなければ生きていけません。
ヤマメは、どこから放射性セシウムを取り込んだのでしょうか?水と餌からしかあり得ません。…と言うことは、清流の源であり、昆虫の住処である森が、すでに核分裂生成物(放射性物質)によって、かなり汚染されていることです。

放射性セシウムとの関係を確かめるために、ヤマメの体が、どんな成分で成り立っているのか、『食品成分データベース』で調べてみました。
カリウムがとても豊富な魚です。カリウムは、ほとんどすべての生きものにとって必須の栄養素。もちろん人間にとっても重要なミネラルの一つです。私たちの先祖は、縄文の昔からつい最近まで、ヤマメを重要なカリウム源として食べてきたはずです。

一方、原子の周期表で見ると、セシウムとカリウムは同じ一番左の列(アルカリ金属)に属し、その化学的性質は似ています。生体は、セシウムをカリウムと勘違いして、体内に溜め込んでしまうのです。そのセシウムが放射性であるかどうかもお構いなしです。
カリウムを濃縮するという生きるための機能を逆手に取るかのように、放射性セシウムがヤマメの体内に蓄積されていくのです。

しかし、話はここで終わりではありません。やがて、ヤマメは野鳥に捕まり、その栄養源となります。野鳥も体内で放射性セシウムの濃度を高めます。同時に、糞の形でそこら中にばらまくことになります(同じ川に棲むアユやアマゴも汚染されていると考えるのが自然ですから、鳥はヤマメ以外からも放射性セシウムを摂取します)。
群れをなす鳥であれば、その住処の森は、放射性セシウムのホットスポットになるでしょう。その森から流れ出た水が、また清流に注ぎ込み… これは恐怖の食物連鎖。一度、核分裂生成物に汚された生態系が元に戻るためには、少なくとも100年単位の時間が必要になります。
その鳥が渡り鳥だったらどうでしょう。海外のある場所に福島第1から漏出した放射性セシウムのホットスポットが出現する可能性もあるのです。

ヤマメにとって、最近の日本人ほど迷惑な存在はいません。乱開発によって住処となる清流を奪い取り、最後は核分裂生成物です。私は、今こそ、「ヤマメの住めない場所には人間も住めない」という考え方を持つ必要があると思います。その時に、私たちにとってもっとも迷惑な存在は、原子力発電所に違いありません。

家康のお茶とセシウム1372011/06/11 09:20

遠く離れた静岡県にまで… 福島第1から放出された核分裂生成物によるお茶の汚染が止まりません。
本山茶から規制値超の放射性セシウム検出」。
藁科「製茶」で規制値超す」。

本山(ほんやま)茶とは、静岡市北部の安倍川と藁科(わらしな)川流域で栽培される最高級のお茶。徳川家康が愛飲したことで知られ、その後も将軍家御用達のお茶として珍重されてきました。

さて、この間のお茶の汚染をめぐる報道で、一点、曖昧にされていることがあります。それは、茶木は葉からもセシウム137を吸収するということです。

農業の世界には、葉面散布という肥料の与え方があります。農作物(植物)が葉から栄養分を吸収する能力を利用したもので、肥料成分を水に溶いて、霧状にして散布します。特に、新芽を出したり葉が増えたりする成長期には、農作物は、葉の表面から効率よく栄養分を吸収するのです。いわば葉面吸収。

セシウムは、植物にとっての三大栄養素のひとつであるカリウムと化学的性質が似ています。悲しいかな、茶木は、大気中のチリや雨とともに降ってきたセシウム137をカリウムと勘違いして吸収。生体内に蓄えているのです。葉面吸収を起こすために、大気中を舞うセシウム137の量が大量に必要かというと、そういうわけでもありません。微量のセシウム137を見事に集めてしまうのです。土に染み込んだ放射性物質を根から吸収しているだけではないのです。

しかし、国の発表や報道では「放射性物質の葉面吸収」に積極的に言及していません。それは、野菜類の汚染の問題で「洗えば大半は落ちる」的な言い方で誤魔化してきたことが、ばれてしまうからでしょう。
思い出してみましょう。最初に問題になったのは、ホウレンソウや小松菜、サンチュなどの葉物野菜でした。いかにも、空から降ってくる放射性物質が葉に付着しやすそうです。事実、葉物野菜は、大気中を舞うカリウムを力の限り吸い込みたいから大きく葉を開いているとも言えるのです。そして、そこに降り注いだのが放射性のセシウム137でした。葉に付着するだけはなく、どんどん生体内に吸収されていきます。水洗いによって除去できる放射性物質はせいぜい1/4程度のようです(このデータはヨウ素131に関するもの)。

さて、話を本山茶に戻しましょう。
江戸時代だったら、「お上の御茶に毒を混ぜた不届き者」として、東電屋の主(あるじ)と番頭は即刻打ち首。いや、それだけでは済まないでしょう。商家なので「お家お取りつぶし」とは言わないかも知れませんが、一族や関係者まで、広くその罪を負わされたことでしょう。
原子力発電の危険性を十分に知りながら、それを強引に推し進めてきた東電や政治家(特に自民党)、さらに原子力安全委員会などの刑事責任が問われることはないのでしょうか?安易に警察や検察の介入を許すと逆に真実が覆い隠されるので注意は必要なのですが、情報の全面公開を前提に刑事責任の追及もあってしかるべきだと思います。
「三菱自動車製大型自動車のクラッチ系統の欠陥による死亡事故」「JR西日本福知山線の脱線事故」「パロマ工業製ガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故」などでは、当該企業のトップ(役員)が業務上過失致死傷の刑事責任を問われています。


附記:
今回の件に関する、川勝知事をはじめとする静岡県の対応については、ちょっと疑問を感じています。「暫定基準値が高い低い、越えた越えない」に終始していますが、これは気をつけないと、生産者と消費者を対立させることになります。消費者としては「少しでも危険なものは飲食したくない」という思いがあります。一方で、生産者は「風評に騙された消費者が離れてしまった」となります。
大切なことは、福島第1原発の事故が起きる前は、静岡県はもちろん、日本中のどこでもセシウム137はゼロにだったということです(より正確には限りなくゼロに近かった)。基準値うんぬんの話の前に、事故を起こしたことに対する東電と政府の責任を追及する立場を明確にすべきでしょう。
そして、少しでも危険なものは出荷しないと。生産地としては涙を呑む思いなのは分かりますが、まずは原則的な立場から補償を求めること。そして、汚染値を少しでも抑えていく方策を考えるしかないでしょう。
泥縄ではあるのですが、農水省では、カリウムを葉面散布することで、茶木内のセシウム137の濃度を下げられないかという研究を始めたようです。いわば、トコロテン式にセシウム137を押し出してしまおうと。可能性はありますが、新芽の成長期の問題も絡みますので、そう簡単ではないでしょうけど。

恐怖のストロンチウム902011/06/12 22:07

本ブログを含む多くの所で多くの人たちが危惧してきたストロンチウム90による大規模な海洋汚染。
遂に、東電も政府も認めざるを得なくなりました。
高濃度のストロンチウム検出 福島第一の地下水や海水
ストロンチウム90が骨に溜まって白血病を引き起こす可能性があることは、今や常識となっています。「それなのに」なのか「だからこそ」なのか、東電からも政府からもストロンチウム90に関する情報は、ほんの小出しにしかされてきませんでした。

福島11地点でストロンチウム 原発から60キロでも
の記事も、つい数日前の6月8日でした。
運転中の原子炉で、ストロンチウム90は、セシウム137とほぼ同量が生成されると言われます。ただ、セシウム137に比べて大気中に飛散しにくいので、事故現場から離れた場所では少なくなる傾向があります。
そのストロンチウム90が福島第1から60kmも離れた福島市で検出されたことは重大です。

一方、今回の事故では、大量の汚染水が海に流れ出しています(棄てているとも言える)。
ここで、危惧されるのが、ストロンチウムが水に溶けやすい物質だということです。炉心や使用済み燃料プールで核燃料を冷やすために使われた水には、当然のようにたくさんのストロンチウム90が溶け出しています。
海に流れ込むストロンチウム90。それは、まず、プランクトンや海藻に吸収されるでしょう。そして、昨今話題になっているコウナゴなどの小魚へ。食物連鎖に従って、中型魚、大型魚、あるいは海鳥へと汚染が進みます。そして、何よりも恐ろしいのは食物連鎖の上位に行くに従って、汚染物質の濃度が上がっていくという事実です。

水産庁は、今頃になって慌てて、魚類のストロンチウム90の検査を骨まで含めて行う、などと言っています。そんなことは、当たり前の話です。同じ記事に、海藻の検査も始めると書かれていますが、言わずもがなです。事故の翌日からでも始めるべきでした。

そして、まだやっていない重要なことがあります。
どうして、オキアミなどのプランクトンを調べないのか?
オキアミを主食にしているのは鯨だけではありません。秋、三陸沖から福島沖を通って銚子沖まで下る秋刀魚は、オキアミを追っているのです。
「オキアミは海洋生態系のエンジンを動かす燃料」と言われます。オキアミを調べなければ、放射性物質による生態系全体の汚染の実態は、絶対に掌握できません。対策も対応も、どんどん後手に回っていくことでしょう。役人たちは何を考えているのか?危険な値が出たら、面倒な仕事が増えるので困るとでも考えているのでしょうか。可能な限りのデータを収集し、そのすべてを迅速に公開する。今ほど、この基本姿勢が問われている時はありません。ストロンチウムの検出には1~2か月が必要などというでたらめな話も出ていますが、専門家によれば、一週間から10日もあれば十分だそうです。
グズグズしている間に、海から、そして魚から、ストロンチウム90は私たちに迫ってきます。

「しょうがないから、今年の秋刀魚は諦めるか…」なんて悠長な事態ではありません。
繰り返します。ストロンチウム90は、体内に入ると骨に溜まり、骨髄に至近距離から放射線(ベータ線)を浴びせます。そこには、白血病の大きな恐怖があるのです。

イタリアは原発にサヨナラ!2011/06/13 21:44

福島第1原発の事故を受けて、ヨーロッパ各国で脱原発への動きが激しいのは、皆様ご存じ通りです。
イタリアでは、チェルノブイリ事故をきっかけに、すべての原発が止められていました。期を見るに敏なベルルスコーニ政権が福島第1の事故を受けて、「新しい原子力発電所の建設を凍結を継続する」と発表したのは、4月の末でした。
しかし、イタリアの人々は、この誤魔化しを見逃しませんでした。「これでは、原発再開のためのフリーハンドを政府に与えてしまう」と。
そして実施されたのが今回の国民投票。結果は、ベルルスコーニ首相のコメントに見事に現れています。「イタリアは原発にさよならを言わなければならない」と。原発反対票は、なんと95%近くに。これは歴史的な出来事です。

ある意味で悔しい思いがあります。
FUKUSHIMAという人類史上に残る大事故を起こしてしまった日本人。広島・長崎という悲劇があったのも日本でした。人類が、原子力から、核から手を切るために、最初に行動すべきは私たちのはずです。イタリア人に先を越されてしまった!

足もとを見たら、日本の政治はポスト菅をめぐって大混乱。そこには、反原発の一言も、脱原発の一言もありません。

そこで、ひとつの提案があります。
次の総理大臣は、「国政史上初の脱原発総理」にしなくてはならないと。
もちろん、日本には事実上国民投票制度はありませんから、イタリアのように行きませんが、マスメディアは、徹底した世論調査と、候補者に対するアンケートを行うべきでしょう。

設問は、
●原子力発電所に関して:
1.すべて原子力発電所を出来るだけ早く停止して、全部の原子炉を廃炉にすべき。
2. このまま、この夏を越えてから、原子炉を廃炉のスケジュールを考えるべき(当面、再稼働はなし)。
3. 5年から10年をかけてすべて原子力発電所を停止すべき(その後、廃炉)。
4. 原子力発電所はできるだけたくさん稼働させるべき。
5. その他(具体的に=)
●東日本大震災の復興財源について:
1. 消費税増税を主にすべき。
2. 法人税増税を主にすべき。
3. 国債発行を主にすべき。
4. その他(具体的に=)

これでいいんじゃないですか?

言葉は悪いですが、次期総理大臣を選ぶに当たって、「原子力」を踏み絵にすべきです。
しかし、私たちが黙っていては、そんなことは起きません。
国会議員に「原発推進の首相候補を推したら、次の選挙で、あなたの当選はないよ」という圧力をかけること。ありとあらゆる力を振り絞って。
そして、まさに「民意」を政治に反映させるためのテコとして、マスメディアに、今度こそ力を発揮して欲しいと思います。

追記:
私は、「6.11脱原発100万人アクション」に参加してきました。集会やデモに出るのは7~8年ぶりです。

いやぁ~、元気が出ました。
結局、一人で考えていると、「水道がヤバイ」「野菜がヤバイ」「お茶がヤバイ」と、目の前の恐怖に対峙して、どんどん追い込まれていくだけなのです。もちろん、さし迫る恐怖はあります。それへの対応もしなくてはいけません。でも、少しでも出口を探したいじゃないですか。

答えは、日本中の、そして、世界中の原子炉を出来るだけ早く廃炉に追い込むことです。そのためには、選挙の一票をだけでは不十分だし、それを待っているわけにもいきません。

6月11日。2万人の人々が新宿駅東口を埋め尽くしました(主催者も人数を掌握できる状態ではなかったので、2万人を欠けたかも知れませんし、越えていたかも知れません)。当初、規制に乗り出していた機動隊も、あまりの数の多さに手の出しようがないという状態。私たちの力も捨てたもんじゃないぞ(笑)。

恐怖に追い込まれているだけではなく、より良い出口を探そう!そういう思いの人たちが、実はたくさんいるのだと分かっただけでも、嬉しい経験でした。

文太と敏行2011/06/16 15:41

菅原文太さんと西田敏行さん。芸能界の大御所二人が素晴らしいメッセージを発してくれました。

菅原さんは仙台出身。西田さんは福島県郡山市出身。今回の震災と原発事故を本気でご自身の問題として受け止めています。

菅原さん提案の『原発をやめろ三国同盟』は、当ブログ「イタリアは原発にサヨナラ!」に頂いた塩爺さんのコメントと100%一致!塩爺さんは、おそらく文太似の二枚目なのでしょう(笑)。
冗談はともかく、菅原さんは、反原発票が95%近くを占めたイタリアの国民投票に感動し、日本でも原発の是非を問う国民投票を!と訴えています。『仁義なき戦い』での菅原さんの名セリフ「弾はまだ残っちょるがよ!」が、とても暗示的に思い出されます。

西田さんは、リンク記事の中にはありませんが、「避難なのか移住なのか」という非常に難しい問題に言及しました。「実はこの中にも、心の底では『もう一生故郷には戻れないのではないか…』というご不安を抱いている方も、多いはずです」と泣きながら訴えたそうです。
政府や自治体は、一様に「皆さんができるだけ早く戻れるように、がんばります」と言いますが、実際には、数十年にわたって立ち入りができない場所ができるのは間違いのないことです。
この件に関しては、チェルノブイリ事故への旧ソ連・ゴルバチョフ政権の対応にすら遅れを取っていという指摘もあります。少なくとも、ゴルバチョフは、数千台のバスを動員して住民の大規模移住を敢行しました。
福島では、同心円状に設定された20km圏、30km圏を基本にしていることが、住民を混乱・困惑させているようです。逃げなくてもいい人が避難させられ、一方で、逃げたくても逃げられない多くの人がいるのです。このあたりの問題を福島現地から緊張感を持って伝えているサイトがあります。たくさんの人の命がかかっているのです。国も自治体も、もっともっと緻密な対応を急いで実行すべきでしょう。

1979年に公開された映画『太陽を盗んだ男』(長谷川和彦監督)。原子力発電所から盗み出したプルトニウムで原爆を作り、日本政府を脅すというストーリーでした。アクション映画仕立てですが、そこには核兵器や原子力発電への恐怖が、深く描き込まれていました。主演は沢田研二に菅原文太。日本映画史上に残る傑作でした(もちろん個人的評価ですが)。今、菅原さんは、奇遇をしみじみと思っていることでしょう。「この際だから、長谷川和彦監督と沢田研二さんからも、何か一言欲しい!」というのは、一映画ファンの勝手な希望ですが…

西田敏行さん主演の人気シリーズ『釣りバカ日誌』のロケ地には、なぜか原発がある場所が多かったそうです。電力会社などが、原発推進キャンペーンの一環として、映画に出資していたという背景があるようです。もちろん、西田さんには何の責任もありませんが、心中穏やかではないでしょう。原発と映画製作をめぐる事情を栗山富夫監督が語っています






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