続・急性白血病で福島第1原発作業員が死亡2011/09/07 16:34

福島第1での作業員の急性白血病に関して、日弁連が声明を出しました。

「急性白血病は遺伝などを原因とする例も見られるが、放射線被ばくや一部の化学物質への曝露等に起因する例が多く、その原因の特定は疾患の種類や遺伝性などの他の原因の有無なども含め慎重に検討する必要がある」(日弁連声明より)

どうにも不可解な事件(と敢えて言いたい)です。東電は、何の裏付けも取らずに冷徹に「無関係」とだけ言い張る。厚労省は沈黙。なぜかマスメディアも多くを語らず。
いったい、どうなっているのでしょうか?

日弁連は、亡くなった男性の職歴、生活歴、それから予想される被ばく線量を徹底的に調査し、その検討結果を公開することを求めています。
もう一つ行うべきなのは、遺族の承諾を得た上での、遺骨の分析です。火葬の温度は800℃程度らしいので、直接の原因となったのがストロンチウム90(沸点=1382℃)による被ばくならば検出される可能性が高いからです。

この事件が闇に葬られることを絶対に許してはなりません。もし、徹底して調査した結果が、本当に「原発と無関係」ならば、それはそれで受け入れましょう。しかし、結局、何も調べていない東電の発表を鵜呑みにするわけには行かないのです。

急性白血病で福島第1原発作業員が死亡2011/08/31 23:43

急性白血病 福島第1原発作業員が死亡」という衝撃的なニュースが飛び込んできたのは、昨8月30日。1日経っても、詳しい情報、新たな情報がまった出てこず、謎だらけです。
とりあえず思いつく疑問だけを列挙しても、
●発表されている被ばく線量は正しいのか?
●正常とされた白血球数はいつ計ったのか?
●白血病発症から数週間で死ぬことがあるのか?
●遺骨に放射性物質の沈着は認められなかったのか?
●過去に原発で働いていなかったのか?
などあります。

本来なら東電と国は、他の作業員の安全を考えて、徹底的に調べるべきでしょう。
しかし、「医師の診断によると作業と死亡の因果関係はない」(松本純一原子力・立地本部長代理)という、氷よりも冷たい一言があったのみです。
亡くなった方のご冥福を祈るとともに、真実の究明を徹底的に進めることを各方面に訴えたいです。

NHKは真相公開を2011/08/31 12:23

『ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図(3)』(8/28放送)を見ました。
木村真三さんと岡野眞治さんの名コンビによる詳細な汚染マップ作りは、今回は内部被ばくに大きく踏み込みました。さらに、ホットスポットで暮らす住民たちの実情を知った木村さんは、「汚染マップ作り」という枠を越えて、具体的に除染への取り組みを行い、その効果を検証しています。
前二回の番組に比べると、やや「安心」寄りのコメントが気になりましたが、住民を目の前にしたら止む得ないのかとも…

実際に除染を行った民家では、屋内の空間線量が半分程度に下がりましたが、それでも、赤ちゃんがいる部屋で毎時0.64マイクロシーベルト。仮に、赤ちゃんが一日中家の中にいるとして、年間の実効被ばく線量は5.61ミリシーベルトにもなります。これは、はっきり言って危険な数字。お母さんが「赤ちゃんと一緒に、この家(実家)を離れて自分のアパートに帰る」と言った時は、少しホッとしました。
とは言え、他の家族は、高い線量の外部被ばくを受け続けます。これは大丈夫なのか?心が痛みます。

さて、この番組の中で、本筋には絡まなかったのですが、奇妙なデータが提示されました。民家の庭の土から、セシウム134、セシウム137と並んで、テルル129とテルル129mが、相当量検出されたというのです(番組中ではナレーションによる解説は一切無く、グラフだけを表示)。数万ベクレル/㎡という高い値です。
半減期はともに短く、テルル129が70分、テルル129mが34日。これは変です。3.11当日、原子炉に制御棒が挿入されて連鎖的核分裂反応は止まっています。それ以降、テルル129もテルル129mも半減期に従って減る一方なので、今はほとんど残っていないはずです(テルル129mの一部がテルル129になるプロセスもあるようですが、それにしても量が多すぎる気がします)。
「すわ、再臨界」と騒ぐ声もありますが、もし、再臨界が起きていれば、他の数値も大きく変化するはずですから、データの解釈になんらかの間違いがあると思われます。

放射性物質の種類を知るためには、放出するガンマ線の波長を計測します(ガンマ線は光の仲間なので波長がある)。放射性物質によって、放出するガンマ線の波長が違うので、それを計測することで、放射性物質が特定できるのです。
と言うことは、テルル129・テルル129mではないにしても、セシウム134・セシウム137以外の放射性物質が、相当の濃度で存在していることになります。
一体、その放射性物質が何なのか?特に、内部被ばくを考える時、核種の特定は極めて重要です。NHKは木村さんとともに、サンプルを再検査して、真相を明らかにして欲しいと思います。

学校 毎時1マイクロシーベルトは低くない2011/08/28 17:58

8月26日、文科省から<学校、毎時1マイクロシーベルト未満に 屋外活動基準「3.8」は廃止>という新たな基準が発表されました。
これは、5月27日に示された「学校内では年間1ミリシーベルト以下目指す」という指針をより明確化して、毎時当たりの空間線量にまで落とし込んだものです。これによって、「年間20ミリシーベルト」「毎時3.8ミリシーベルト」という基準は、完全に撤回されたことになります。
しかし、本ブログで既報の通り、「学校 年間1ミリシーベルト」は安全な数値とはとても呼べないものです。

今回示された毎時1マイクロシーベルトを、通学日数=200日、1日当たりの学校滞在時間=6.5時間(屋内=4.5時間/屋外=2時間/コンクリート校舎による低減係数=0.1)で積算し、これに給食などによる内部被ばくを加算しても、年間0.534ミリシーベルトにしかならない。従って、十分に安全だというのが文科省の主張です。
試しに、
1μSv×(2時間+4.5時間×0.1)×200日
で計算すると、外部被ばく線量は年間0.49ミリシーベルトにしかなりません。内部被ばく量算出の根拠がどこに有るのか不明なのですが、この0.49ミリシーベルトに内部被ばく分を足したものが年間0.534ミリシーベルトということのようです。

しかし、子供たちは、学校を離れている時、放射線をまったく通さない鉛の部屋にいるわけではありません。逆に、学校などから除染を進めているので、学校を離れると、より線量が高い場所にいると考える方が自然です。

では、毎時1マイクロシーベルトを前提に、24時間365日の年間外部被ばく量を計算してみます。屋外=8時間、屋内=16時間、屋内の低減係数=0.1とすると、年間3.5ミリシーベルトです。木造家屋の低減係数=0.4を使うと、年間5.3ミリシーベルトにもなります。
実は、原発の作業員で白血病などのガンになって労災認定されている人の中には、年間被ばく線量が5ミリシーベルト強だった人も含まれています。国もそのブレーンになっている学者たちも、年間5ミリシーベルトが、大人にとっても十分に危険な数字であることを知っているのです。

福島の学校を、いえ、福島をこのままの状態にしてよいはずはありません。あくまで、24時間365日で1ミリシーベルト以下という国際基準を前提にした対策を進めること。それを政府と東電に求めていく必要があります。

再溶融や再臨界は起きるのか2011/08/21 21:23

福島第1そのものは、今、どうなっているのでしょうか?どうも政局に目を奪われて、マスメディアも、私たちも、視点が一番重要な部分から離れているような気がします。
一度、冷静に見直してみましょう。

まず使用済み核燃料プールです。1号炉から4号炉まで、すべてで循環冷却システムが稼働し、水温は32℃~42℃(8/20現在)と安定してきています。
ただ、大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性は残されています。
崩壊熱というのは、連鎖的核分裂反応によってできた核分裂生成物(ヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90など)や超ウラン元素(プルトニウム239やアメリシウム241など)が、放射線を出して崩壊する際に、その放射線が他の物質に衝突して発生する熱のこと。核燃料は、崩壊熱が少なくなるまで、使用後3年間は原子炉に付属するプール内で、循環する水を使って冷却し続けないと、どこにも動かせません。

最悪の場合、使用済み核燃料プールで核燃料が溶融する可能性があると記しましたが、再臨界はどうでしょうか?溶融した核燃料がプールの底に有る限り、平らに集まるので、再臨界の可能性は低いと思われます。
しかし、大量の核燃料が一気に溶融すれば、<水が無い→崩壊熱で温度が上がる→さらに水が蒸発して無くなる→崩壊熱でさらに温度が上がる>という悪循環が起きます。溶融した使用済み核燃料は、プールの底のコンクリートを溶かして、下に落ちていくでしょう。この時、何が起こるのか… 下に何があるのかによって決まります。大量の水があれば、水蒸気爆発です。

この使用済み核燃料に対する危惧は、福島第1でなくても、すべての原子力発電所に当てはまります。ただ、福島第1の場合は、地震・津波・水素爆発で建屋や施設が大きく損傷。循環冷却システムは仮設と言ってよい急造り。不具合が発生する可能性が高いので、危険性は、より高いのです。


1号炉から3号炉までの原子炉本体はどうでしょうか。
いまだに圧力容器内の、本来、燃料棒の頭頂部がある位置よりも2メートル前後下の位置までしか水で満たされていません。燃料棒は4メートル程の長さですから、元の形を残していれば、半分しか水に浸かっていない状態です。ただ、炉心溶融した際に、上の方から溶け出した可能性が高いので、現在、水面の上に出ている燃料棒があるかどうかは不明です。

圧力容器は、穴の開いたヤカンのようになっているので、溶けて固まって圧力容器の底にある核燃料は、一応、水の中です。圧力容器を溶かして、格納容器にまで達している分は、流れる水に洗われている状態でしょう。大量の放射性物質を溶かし出しながら。

原子炉本体に関しては、当初、圧力容器を水で満たす水棺を目指しました。しかし、容器の底に穴が空いているために不可能と判明。循環冷却システムの構築を目指していますが、漏水が多く、あっちこっちに溜まった汚染水を浄化して、なんとか炉心に水を注ぎ続けているというのが現状です。
これは綱渡りと言ってもよい状態です。何らか理由で注水が止まれば、冷えて固まっている核燃料が、崩壊熱でふたたび溶け出します。

チェルノブイリ事故では、2度の水蒸気爆発が起き、放射性物質がヨーロッパ全域とも言える広範囲に撒き散らされました。しかし、それでも想定された最悪の水蒸気爆発は避けられました。
チェルノブイリには4基の原子炉がありましたが、事故を起こした4号炉を含めて、すべて福島第1とは異なる黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というタイプでした。従って、まったく同じようには語れないのですが、原子炉の底の部分に溶融した燃料が集まり、コンクリートの底を溶かし始めたのは、ほぼ福島第1と同じです(福島第1の圧力容器の底は鋼鉄製)。
そのコンクリートの下には、大量の水を蓄えた水槽がありました。ここに一気に溶融した核燃料が落ちたら、巨大な水蒸気爆発が起きます。水を入れたバケツに、真っ赤に燃える石炭をスコップ一杯でも投げ込んだらどうなるでしょうか。その大規模版が原発の水蒸気爆発なのです。
もし、この大規模な水蒸気爆発が起きていれば、残りの3つの原子炉にも被害が及び、放射性物質による汚染は数倍になっただろうと言われています。爆発を防いだのは、3人の男たちでした(ソ連軍の軍人と思われる)。彼らは潜水具を付けて、高濃度に汚染された水が溜まる水槽に潜り、水栓を抜いてきたのです(風呂の栓ではありませんから、実際にはバルブを開けたとか、そんな作業でしょう)。その後、予想通り原子炉の底のコンクリートが溶けて抜け、高温で溶けたままの核燃料が空になった水槽へと落ちました。最悪を越える最悪だけは避けられたのです。

ここでチェルノブイリの話を出したは、福島第1で、これに近い事態が起きる可能性が残されているからです。もし、何らかの理由で注水が止まれば、水の無い圧力容器内で、核燃料はほどなく溶融します。それが一気に圧力容器の底を溶かしたら、下で待っているのは格納容器の底に溜まった大量の水なのです。

考えてみれば、事故発生当初に起きていたメルトダウン(メルトスルー)の段階で、水蒸気爆発に至らなかったのは幸運でした。三つの原子炉はどれも一度は、圧力容器が完全に空焚きの状態になっていました。炉心溶融が、もっと激しく進んでいたら、ヤカンの底が丸ごと一気に抜ける可能性もあったはずです。下は格納容器に溜まった水。水蒸気爆発が起きます。今、圧力容器に空いている穴が、比較的小規模なもので済んでいるのは不幸中の幸いなのです。少なくとも、事故発生当初の段階で、「メルトダウン(メルトスルー)から水蒸気爆発」という最悪のシナリオは回避されました。しかし、今後もそれが起きないとは断言できないのです。恐ろしいのは、冷却水が止まることです。

さて、炉心での再臨界の可能性に話を進めましょう。
一つ前の記事で、再臨界が起きるかどうかは、固まった核燃料の「(ウラン235の)濃度」「大きさ」「形状」で決まると述べました。今、3つの原子炉の中で、核燃料は冷えて固まった溶岩のようになっています。巨大な塊もあれば、一抱えほどの大きさのもの、あるいは石ころのような状態になっているものもあるでしょう。
怖いのは、何かのキッカケで、それらが大きな集まりになることです。一つの塊なら臨界に達しなかったものが、二つ、すぐ近くに寄っただけで臨界反応が始まる可能性があります。例えば、冷却水の流れや、余震などによって、岩のような塊が転がって集まっただけで…
また、デーモン・コアの時のように、核燃料の上に、偶然、中性子を反射する物質が落ちてくるのも怖いです。
ちょっとしたキッカケで、核燃料は、簡単に臨界状態になるのです。

核燃料が再溶融して、ドロドロの一塊になった場合も極めて危険です。全体が臨界状態に達すと言うよりは、瘤状に盛り上がった部分(球に近い形状)や、例えば、広めの空間に流れ込んで、少しでも球に近い形でまとまった時、臨界が起きる可能性が高いのです。
何度か書いている通り、臨界状態になれば、大量の中性子線が出て、近くにいる人は間違いなく死にます。温度も飛躍的に上がるので、周りで様々な化学反応が起き、水素爆発の可能性が高まります。さらに、大量の核分裂生成物が生まれ、それがばらまかれます。

今、いくつかの悪い想定を積み重ねて、核燃料の再溶融や再臨界を論じていますが、福島第1の建屋や施設がボロボロになっていることを考えれば、心配しすぎとは言えません。
とにかく、冷却が止まらないように最大限の努力を続けること。そして、急造りの冷却システムの危うさをどう補うのかを考えないといけません。チェルノブイリで採用された石棺方式も、一つの選択肢かも知れません。

クリス・バズビー氏の論文2011/07/23 16:28

7月17日から21日まで、日本各地で講演や記者会見を行ったECRR(欧州放射線リスク委員会)のクリス・バズビー氏。福島第1の200km圏内では、今後10年の間に20万人、今後50年には40万人もの超過ガンが発生するとの予測をしていました。
3月30日に発表されたこの論文は、これまで公式な日本語訳がありませんでしたが、このほど、ウェブ上で発表されました。

当ブログとしては、下記リンクにて、まずは一切の評価を加えず、この論文の紹介のみを行います。とにかくみんなで読んでみましょう!

ECRRクリス・バズビー論文「福島の破局的事故の健康影響」日本語訳

横行する嘘2011/05/26 21:39

誰が、いったい何のために、嘘をついているのでしょうか?
福島第1原発:海水注入中断せず、所長判断で継続

どうにも話が分かりません。
主な登場人物は、
菅直人首相
班目春樹原子力安全委員会委員長
武藤栄東電副社長
吉田昌郎福島第1原発所長
です。

この話、小説だったらミステリアスで面白いでしょう。
しかし事実として、人の命が手玉に取られていました。判断が正確であれば、ある程度は漏出する放射性物質を少なくできたでしょう(水素爆発を防げた可能性もあります)。

誰かの目なのか、自分の地位なのか… それだけを気にして、取り返しのつかない嘘をついている人物がいます。

どこかに真実があって、どこかに嘘がある。
特に、吉田昌郎福島第1原発所長の「国際原子力機関の調査があり、国際的にもいろいろ評価することを踏まえ、事実を報告する気になった」という発言は気になります。そのまま受け取れば、吉田所長はある意図のもとに、「海水注入断を中断しなかったという事実を報告する必要はない」と、勝手に判断していたことになります。一方で、吉田所長が、東電本店からも政府からもフリーハンドであったのか… 分かり難いところです。

海水注入がいつ誰の判断で始められたのか、あるいは、実際に海水注入が中断されたのかどうかは、現時点では藪の中です(あの状況からすれば、海水注入自体は正しい判断です)。この経緯は、絶対に明らかにしなくてはいけません。

本当のことを言えば、私たち被害者は、こんなくだらないことに付き合っている暇はありません。ミステリー小説を読んでいる時ではありません。欲しいのは正確な事実。福島の20ミリシーベルト問題はどうするのか… 野菜や水産物を介した内部被ばくの問題はどうなのか… すべて、私たちが事実を知るところからしか始まりません。

とにかく情報を東電と官邸から引き剥がさなければ、駄目なのです。
事実が出てこなければ、原発の危険性は覆い隠され、私たちは、また同じ過ちを犯すに違いありません。
モニタリング、スクリーニング、事故原因究明のすべてに渡って、原発反対派を含めた第三者組織を立ち上げる必要があります。

メルトダウンと再臨界2011/05/16 21:19

メルトダウン。世界中が起きていると言い、東電と日本政府だけが起きていないと言ってきました。
しかし、もはや東電も政府もメルトダウンを認めざるを得なくなりました
そして、その恐ろしい事態が地震発生のその日の内に起きていたことが明らかになっています。

1号炉の3月11日を振り返ってみましょう。

14:46 地震発生。原子炉自動停止。
15:30 津波の被害で炉心冷却機能全喪失。
        ↓
    崩壊熱により冷却水が蒸発
18:00 燃料棒の頭頂部が冷却水の上に出始める。
19:30 燃料棒の一番下まで水位が下がり、「全露出」状態に。炉心は1800℃以上になり、燃料被覆管のジルカロイが溶け、二酸化ウランの燃料ペレットが圧力容器の底に落ち始める。
21:00 炉心や圧力容器の底に落ちた燃料ペレットが二酸化ウランの融点である2800℃を越え、メルトダウンが始まる。
翌6:00 すべての核燃料がメルトダウン。

原子力技術協会の石川迪夫最高顧問は「溶けた燃料棒は圧力容器の下部でラグビーボールのような形状に変形しているのではないか」 と言っていますが、「幸い」にも、ラグビーボール状にはなっていないでしょう。

なぜ「幸い」なのか… それを知るために、「燃料棒がなぜ棒なのか?」から考えていきましょう。
使用中の燃料棒には1%~4%のウラン235が含まれています。ウラン235が連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、ある程度の濃度で、ある量が一か所に集まることと、集まった時の形状が問題となります。球状に集まると臨界になりやすく、平らになったり、棒状になった場合は、臨界になりにくくなります。

炉心では、たくさんの燃料棒が狭い隙間を空けて束になった状態になっています。その隙間に中性子を吸い込みやすい物質でできた制御棒を入れるからこそ、臨界ギリギリで原子炉を運転したり、いざという時に短時間で臨界反応を止められるように設計されています。つまり、制御棒が入った時は、臨界が起きにくく、制御棒がない時は臨界が起きやすいと。このように、燃料棒と制御棒を綱渡りのようにコントロールしているのが、原子炉の炉心なのです(すべてが理想的に動くという想定の下に)。
さて、その燃料棒がすべて溶けてしまったら、隙間がなくなりますから、制御棒はまったく効果無しです。溶けた核燃料が圧力容器の底にラグビーボール状に集まったら… 恐ろしいことです。間違いなく臨界反応が起き、それも小規模なものでは済まないでしょう。日本の原発を推進してきた重鎮の一人である石川迪夫氏の頭の中に、その光景が浮かばないことが不思議でなりません。

原子炉はゆっくりとした臨界反応によって生じる熱を発電に使う装置です。原爆は瞬間的に起きる制御できない臨界反応によって生じる熱や放射性物質でたくさんの人を一瞬のうちに殺戮する兵器です。人間の制御下にない臨界反応は、絶対に起こしてはいけない恐ろしい事態なのです。

1999年、たった16㎏、バケツ一杯の核燃料(この時はウランを液体に溶かしていた)が起こしたJCOの再臨界事故ですら、2名の死者と667名の被曝者を出しています。

メルトダウンの第1の恐ろしさは、制御下にない臨界反応を引き起こして、巨大な熱エネルギーによって、圧力容器や格納容器を吹き飛ばし、放射性物質を広い範囲に撒き散らすことです。

今回は「幸い」にも、今までには大規模な再臨界は起きていません。では、いったい核燃料はどうなっているのでしょうか?

メルトダウンしましたから、一旦は間違いなく溶岩のようなドロドロの状態になっています。ここで思い出したいのは、圧力容器が鋼鉄でできていること。鋼鉄の融点は1600℃。2800℃で溶けている核燃料を支えることはできません。ヤカンの底に穴が開くように、圧力容器に穴が開き、溶けた核燃料が格納容器へと落ちていく様が目に浮かびます。

格納容器の底には水がありますから、そこで小規模な水蒸気爆発を起こしながら、固体に固まっていったはずです(ここで、もし溶融した核燃料が一気に格納容器に落ちていたら、チェルノブイリのような大規模な水素爆発が起き、今よりもっともっと深刻な事態になっていたでしょう)。火山の溶岩が海岸で水に触れて固まるのと同じようなイメージです。途中で水飴のように延びたりしたので、最終的に固まっている核燃料は、複雑な形をしているでしょう。急に冷やされたので、小さく割れている部分もあるはずです。これが、今まで「幸い」にも大規模な再臨界が起きなかった理由です。

しかし、「幸い」とは言え、そこにメルトダウンが引き起こす第2の恐怖があります。核燃料が、圧力容器や格納容器を溶かして、環境の中にむき出しになっているのです。放射性物質が、どんどん漏出していくのは言うまでもないことです。

そして、とりあえず固まっている核燃料によって、今後、再臨界が起きる可能性がないかというと、そうは言えません。理解すべきなのは、再臨界が起きるために温度は関係ないということです。ある濃度のウラン235が、ある分量、ある形で集まったら、再臨界は起きます。
圧力容器や格納容器の底で、一部、バラバラになって固まっている核燃料が、余震や、あるいは冷却するための水の流れなどで、どこかに集まった瞬間、再臨界が起きる可能性は十分にあるのです。
それを避けるために、3号炉からホウ酸の投入が始まりました。
ホウ酸(ホウ素)は、中性子を吸収するので、始まってしまった臨界反応を止めたり、臨界反応が起きるのを予防します。東電も政府も、再臨界を恐れざるを得ない状況は続いているのです。

追記:
3月11日からこれまでに、再臨界が起きていなかったのか?
結局、データは東電と国に握られていますので、どうにも判断しようのない部分はあります。ただ、爆発的な中性子線量が確認されていませんので、少なくとも、格納容器の外で再臨界が起きた可能性は低いと思われます。
ただ、2か月を経て、どうにも圧力容器の内部の温度が下がってこないのは、再臨界を疑わせます。溶けた核燃料は、全体で臨界状態に達するわけではありません。部分的にコブのように出っ張ったところ(球に近い形状になったところ)で再臨界に達する恐れもあります。

そして、事実を掌握するためには、情報管理を東電と安全・保安庁から切り離し、原子力発電に利害関係のない第三者機関に委ねるべきです。
現状は、脇見運転で大事故を起こした容疑者とその同乗者が、自分たちで現場検証をしている状態なのです。普通は許されない話です。スリーマイルアイランド事故でも、直ちに第三者機関が立ち上がり、当事者からは、すべての権限を取り上げたそうです。

SPEEDIに情報操作か?2011/05/11 17:30

SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は、高性能のコンピュータを使って、原発事故による影響を、地形条件や気象条件を細かく算入した上で予測するシステムです。2010年度だけでも7億8000万円という税金を使って運用されています。
政府は、それを「生データを公表すれば誤解を招く」という本末転倒な対応を続けてきました。

情報隠しに対する批判の高まりを受けて、やっと公開されるようになりましたが、どうも出ている情報が足りないような気がして、「SPEEDIの出力図形の一覧」を確認してみました。そうしたら、なんと、ヨウ素以外のFP核種(=核分裂生成物)に関連する内部被ばく関連のデータが、まったくない!
専門用語が並んでいて分かり難いのですが、「地表蓄積量(ヨウ素)(上記以外のFP核種など)/地上に蓄積するヨウ素およびFP核種などの積算量を表示」「内部被ばくによる臓器の等価線量/FP核種などの吸入による肺、骨表面など臓器の等価線量を表示」などは、間違いなく隠されています。特に、ヨウ素131以外の核分裂生成物(半減期が長いセシウム137やストロンチム90)による内部被ばくは、これからも問題となるし、これから注意し、対策を講じても、ある程度効果が期待できるものです。

国は、福島第1の事故に関連するすべての情報を無条件に全面公開すべきです。たくさんの人の命がかかっているという、当たり前のことを日本政府は理解できていないのでしょうか…

モニタリング体制に問題有り2011/04/21 10:29

そもそも、福島第1原発の敷地内や施設内での放射性物質のモニタリング(監視)体制に大きな問題があります。

考えてみたら、居眠り運転で重大事故を引き起こした容疑者が、みずから現場検証を行っているようなもの。お目付役は、ドライバーが眠そうなのを知りつつ、運転を続けさせてきた同乗者=原子力・安全保安院なのです。
サンプルの採取は東電じゃないとできない部分もあると思いますが、すぐさまモニタリングの主体を第三者機関に移すべきでしょう。
重大事故ですから、同一のサンプルを複数の機関で分析する体制が必要です。国立大学の研究室などがよいでしょう。また、原子力発電に対して慎重な態度を取り続けてきたグループにも参加を仰ぐべきです。

もう一つ、これもモニタリングに関連する話ですが、昨20日、原子炉建屋内に入ったロボット「パックボット」が撮影した映像が公開されました。「撮影自体は17日と18日に行われたのに、なぜ公開は20日なの?」と率直に思ってしまいました。
東電は、見せたくないものが写っている部分をカットしているのでは、と勘ぐりたくもなってしまいます。よきに解釈しても、本当は重要な情報が隠されていた映像が公開されていない可能性があるでしょう。多くの科学者や技術者に出来るだけ早く、すべてを見てもらい、意見を求めていく姿勢が必要です。東電の隠蔽体質はまったく変わっていません。

最新鋭のロボットによって得られている原子炉建屋内の貴重な映像は、リアルタイムのストリーミングで、全世界に対して公開されるべきだと考えるのは私だけではないでしょう。






Google
WWW を検索 私設原子力情報室 を検索